金曜時評

身近な文化保護を - 編集委員 高瀬 法義

 今年4月、国会で文化財保護法の一部改正案が可決、成立した。今回の改正は、芸能や工芸技術などの無形文化財と地域の祭りをはじめ無形の民俗文化財を対象とした「登録制度」を新設することが大きな柱だ。また、酒造りや料理なども新たに文化財として価値づけられた。

 同法には、厳しい規制を伴うが手厚い保護を受けられる「指定制度」と、比較的に規制が緩やかな「登録制度」があるが、これまで「登録」の対象は有形の文化財に限られていた。新たに無形の文化財も対象とすることで、より幅広い分野の文化財に網をかけて保護を行うことが改正の狙いだ。

 背景には、新型コロナウイルスの感染拡大がある。無形の文化財には地域の過疎化や少子高齢化などで、後継者不足に悩むものが多い。加えて、コロナ禍で祭りや伝統芸能の公演の中止などが相次ぎ、今後、保存や存続が危ぶまれる無形文化財が増える恐れがある。

 平安時代から続く「春日若宮おん祭」の古儀復興に取り組んだ県立大学客員教授の岡本彰夫さんは著書「日本人よ、かくあれ」の中で、祭りの奉仕者が食べる御飯を伝統的な釜で炊ける人がいなくなり困った話を紹介している。電気炊飯器などの便利な調理器具が増えたためだが、岡本さんは「一番伝承が難しいのは、みんなが知っていること」と言う。

 地域に伝わった祭りや伝統芸能、民俗技術なども同じ。地域の人々にとって身近なものほど、その大切さに気づきにくいものだ。「登録文化財」になっても、「指定文化財」と比べると支援のための助成金は少ないが、地域の人々が自分たちの宝に気づくきっかけとなり、担い手たちが誇りを持って保護活動に取り組むための力にはなるだろう。

 本県は多くの古代遺跡や古墳、社寺仏閣が点在し、全国でも屈指の数の有形文化財を抱える。そうした華やかな文化財に目が奪われがちだが、県内各地には祭りや伝統芸能をはじめ地域に根ざした無形文化財も多く、保存や存続の危機にあるものも少なくない。

 今回の改正では国だけではなく、地方自治体が独自に設ける「地方登録制度」も新設される。有形無形に関わらず地域の文化財にとって最も身近な専門家は市町村の技師であり、その役割は大きくなる。体制がまだまだ不十分な自治体もあり、地域に眠る文化財の保護や活用のためにも今後、人材の育成が急務といえるだろう。

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