金曜時評

戦争が軍隊を招く - 論説委員 北岡 和之

 昭和20年の敗戦の後、被占領国だったわが国の政府に対し、連合国最高司令官だったマッカーサー元帥は25年7月、「人員7万5000名からなる国家警察予備隊」の創設を命じた。これを受けて同年8月、こんな政令が公布された。第1条に「わが国の平和と秩序を維持し公共の福祉を保障するのに必要な限度内で国家地方警察および自治体警察の警察力を補うため警察予備隊を設け、…」とある。

 この警察予備隊は、27年10月には「保安隊」に改組。さらに29年3月に日米相互防衛援助協定が結ばれ、同年6月には自衛隊法と防衛庁設置法が成立し、陸海空の自衛隊へとなってゆく。

 警察予備隊から保安隊、そして自衛隊へと変わってゆく中で、記憶しておきたいことがある。警察予備隊の英語表記は「National Police Reserb」。これに対して保安隊は「National Safety Forces」だ。「ポリス」と「フォース」の違いは大きい。敗戦後のわが国の再軍備は、こっそりとなし崩し的に進められていったのだ。

 わが国が再軍備へ進むきっかけになったのが昭和25年6月25日に始まった朝鮮戦争。在日米軍の部隊を朝鮮半島に送らざるを得なくなったマッカーサーが考え出したのが、警察予備隊設立だった。日本国憲法によって軍隊の設置はできず、あくまでも警察でなければならなかった。だが根底では、再軍備の意図が隠されていたようだ。

 ここまでの歴史を振り返ると、安倍晋三首相が憲法への自衛隊明記をこだわる思いを、少しは理解できそうな気もする。

 米国の都合で設立された警察予備隊。軍だと違憲だから警察にした。そもそものスタートから自衛隊への道は不安定なものだった。だが国際情勢の変遷の中で、自衛隊を不安定な存在とすることは国家にとって好ましい状態ではない。国民が共有する精神的な基盤を持たなければならない。憲法9条に自衛隊を明記することで、違憲の負い目も解消できる。間違っているかもしれないが、安倍首相の思いではないか。

 だが憲法9条は「国権の発動たる戦争」の放棄と「陸海空軍その他の戦力」の不保持、「国の交戦権」の否認を掲げる。当初のポリスからフォースへと変質した自衛隊の国民共通の精神をどう考えたらいいかは難しい課題だ。今も休戦状態だという朝鮮半島の情勢が大きく動いた。注意深く見守りながら、また自衛隊について考えよう。

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