玉手駅(JR和歌山線) - 神話と伝承の舞台見渡す
五条方面に行く電車は御所駅を出ると左にカーブする。その先にあるのが玉手(たまで)駅。駅近くには古くからある家と新興住宅が交ざりあった町並みが形成されているが、役行者(えんのぎょうじゃ)の産湯の井戸がある吉祥草寺など歴史は古い。駅は農地の真ん中にぽつんとある。西には葛城山や金剛山などが見渡せる。
この辺りから見える葛城山東山麓(ろく)は神話や伝承などに登場する場所。三輪山麓の三輪王朝より先の4、5世紀に葛城・鴨氏などの豪族による葛城王朝が繁栄していたといわれている。葛城山麓には、この時期見事なイチョウが黄色く色づくことで知られる葛城坐一言主神社や、金剛山麓には葛城氏の祖神をまつる高天彦神社がある。
取材当日、午後4時7分王寺発五条行きの普通電車に乗った。多くの高校生で込み合う車内。電車は二上山の稜(りょう)線をなぞるように沈んでいく夕日を見ながら、やがて高田駅に到着した。ここから玉手駅までは約11分。茜(あかね)色に染まるころに到着した。駅前や駅周辺は田や畑。駅東側を走る道路は橿原方面と五条方面などを結ぶバイパスとして機能しているため長い渋滞ができていた。この道路の歩道に三脚を据え、暮れ行く時間を待った。やがて駅舎に明かりがともり撮影を開始した。
『 明日香川 黄葉(もみちば)流る 葛木の 山の木(こ)の葉は 今し散るらし 』
あと1週間で12月。大和路の紅葉も、もうすぐ散り始める。
写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)