奈良の食文化を世界に 荒井・奈良県知事に聞く - ガストロノミーツーリズム世界フォーラム
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「奈良」の食 観光で堪能
国連世界観光機関(UNWTO)が主催する「第7回ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」の開催地として日本で初めて奈良県が選定された。ガストロノミーツーリズムは、地域の風土、伝統に育まれた食文化を楽しむ「持続可能な観光」として振興が目指されている。日程は、新型コロナウイルス対策の影響で当初の6月予定が12月13〜15日の3日間に半年延期されることが決まったが、内外から官民が一堂に会する国際会議の開催は奈良県の歴史文化、観光を世界にアピールする機会として成果に期待が高まっている。荒井正吾知事に、同フォーラム開催に至る経緯や意義について聞いた。
荒井正吾奈良県知事インタビュー
ガストロノミーツーリズムの取り組みについて語る荒井正吾知事=奈良県庁
「おいしい」で地域経済に潤い
—まず初めに「ガストロノミーツーリズム」について教えてください。
ガストロノミーツーリズムとは、食の振興を観光と結びつけた動きで、まだ聞き慣れない新しい言葉かと思いますが「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、食文化に触れることを目的としたツーリズム」とされています。
これまでも農村など地方で余暇を過ごすルーラルツーリズム、あるいはグリーンツーリズムと呼ばれる旅行がありましたが、ガストロノミーツーリズムは景色だけでなく、おいしい食事も併せて楽しもうという取り組みです。そうすることで滞在時間が伸び、観光消費も増える。リゾート地など、くつろげる環境とともに食の魅力があれば富裕層の呼び込みにつながり、地域経済も潤います。
—ガストロノミーツーリズムの推進に奈良県が取り組む狙いもそこにある。
地方の観光を振興することで都市部に集中している所得の均霑(きんてん)を図ることができるという面もあるんですね。ツーリズムというのは「所得の地方移転」だと。その旅行の効果に加えて食を楽しむガストロノミーも大きなアイテムにしていこうという動きです。
これは奈良県にとっても大きな意味がある。観光は世界を、そして県内経済も潤してくれますが、ただ多くの人に来てもらえれば良いというものではない。消費を増やさないと。観光は滞在時間とともに消費が増えるわけですから、まず宿泊客を増やす取り組みが必要です。またおいしい食事もないといけない。宿泊と食は観光の大切な要素。これまで奈良県内はホテルが少なく通り過ぎるだけの観光になっていた面があり、県は宿泊施設、おいしい食づくりに取り組んできました。そうした県の狙いがガストロノミーツーリズムと合致したということです。
奈良の歴史 文化 プラス「食」でも評価を
—奈良県内で開催されるガストロノミーツーリズム世界フォーラムについて。
国内で初めて開かれる同フォーラムの会場に奈良県が選ばれたのは大変名誉なことです。これまで食と観光の振興に取り組んできた成果でもあるし、奈良県コンベンションセンターを整備したことで国際会議に対応できるようになったことも大きな要素です。奈良県が開催地に最適かどうか、人から冷やかされることもありましたが、おいしい食がある観光地づくりに取り組む姿勢は評価してもらえると思います。ガストロノミーツーリズムでは地域の歴史、文化が重要になりますが、その点でも奈良県はどこにも負けません。
また誘致に至った経緯の一つは、ガストロノミーツーリズムを提唱するUNWTOの駐日事務所が奈良県内にあることも関係しています。同事務所はアジア太平洋地域の観光促進などを目的に1995年に初の地域事務所として大阪府に開設されたのですが、当時、国の観光部長として誘致にかかわり、2012年に奈良県内へ移転されました。
ミシュランも注目 奈良の「おいしいもの」
—同フォーラムで期待される効果は何でしょう。
UNWTOには159カ国が加盟、準加盟国も6地域あり、フォーラムには各国の観光大臣級や政府関係者、観光関連事業者、シェフなど国内外から約600人、3日間で延べ1800人の参加が見込まれています。そうした国際会議を開くことで、世界に向けて奈良県の観光、食などをアピールする効果が期待できます。これまで奈良県は文化、歴史がある地域として知られてきましたが、おいしいものについては評価を受けてこなかった。しかし奈良県内にもおいしいものが随分と増えてきており、見直す機会にしてほしいですね。
また会議出席者には奈良県だけでなく近隣府県も訪れてもらいたい。2025年に大阪・関西万博が控えており、その宣伝も兼ねて各地の観光、食事などをPRする場にもしてもらえればと考えています。昨年10月の近畿ブロック知事会議では、各府県知事の参加や地域の「おいしいもの」の出店、宿泊施設の「女将(おかみ)さん」参加なども提案しました。
—最後に、改めて奈良県内の食と観光の振興について。
これまでも奈良県産農産物の認証制度によるブランド化やフードフェスティバルなどイベントの開催を通じ、食の振興に取り組んできました。また「なら食と農の魅力創造国際大学校」(NAFIC=ナフィック)などで食を支える担い手の育成、強化や情報発信機能の充実も推進。ミシュランガイドにも掲載される「おいしいレストラン」が増えてきています。
今回の世界フォーラムは奈良県の食の魅力を国内外に発信する絶好の機会であり、食の魅力を生かした誘客につながるよう取り組んでいきます。奈良県内の豊かな歴史文化と自然に触れてもらうとともに食も楽しんでもらい、気持ちも、おなかも満たされる県観光を目指したい。これを機に現在奈良県内に広がりつつあるオーベルジュなどガストロノミーツーリズムが奈良県内各地域に根付くことを期待しているところです。
ガストロノミーツーリズム世界フォーラム
本部はスペイン・マドリード 前回はベルギー
ガストロノミーツーリズム世界フォーラムはスペイン・マドリッドに本部を置く国連世界観光機関(UNWTO)が主催し、2015年から毎年、世界各都市を会場に開かれている国際会議。
同フォーラムについて奈良県は2020年1月にスペインで誘致活動を行うなど積極的な取り組みを展開。その中では、なら食と農の魅力創造国際大学校(NAFIC)とスペイン・サンセバスチャンにあるバスクカリナリーセンター(BBC)との連携協力についても協議。また観光庁の支援も得て、昨年のベルギー大会で、2022年の日本・奈良県開催が発表された。
ベルギー大会は昨年10月31日から11月2日まで、同国の古都ブルージュで開かれ、政治関係者や民間団体、ジャーナリストらが集まり、オンラインと合わせて135カ国、約2060人が参加。「ガストロノミーツーリズム・地方観光と地域振興の推進」をテーマに、意見交換が行われた。
同大会には奈良県からも担当者が現地に赴き、奈良県主催のランチレセプション、荒井正吾知事のビデオメッセージ披露などを実施するとともに、奈良県開催に向け会場などを視察した。
奈良県MICE推進室は「開催日程が当初の6月から12月に延期されたが、その分、準備に時間をかけられる。大きな成果につながるよう、万全の取り組みを進めていきたい」と意欲を示している。
昨年のベルギー大会で行われた奈良県主催のランチレセプション(奈良県提供)
ガストロノミーツーリズム世界フォーラム開催状況
第1回 2015年 スペイン(サンセバスチャン)
第2回 2016年 ペルー(リマ)
第3回 2017年 スペイン(サンセバスチャン)
第4回 2018年 タイ(バンコク)
第5回 2019年 スペイン(サンセバスチャン)
第6回 2021年 ベルギー(ブルージュ)
第7回 2022年 日本(奈良県)※予定