大和の神結び vol.1 - 天河弁財天社 第1話
第1話 はじめに
奈良県の吉野地方の山奥にある天川村という小さな村をご存知だろうか。
修験者が修行する大峰山系に囲まれたこの場所に天河大弁財天社(てんかわだいべんざいてんしゃ、天河神社) がある。記者が初めてこの神社にお参りしたのは5年ほど前のこと。当時はまだ県外に住んでいたのだが、たまたまインターネットでこの神社を知ることになり、その澄みきった境内の様子に「ここに行きたい! お参りしたい!」と強く思ったことがきっかけだった。
では行ってみましょうと、調べ始めたが、とにかく行きづらい場所にある。家から電車を4本乗り継いでバスに乗る。そのバスの本数も少なく、綿密に時間を計算しないとたどり着けそうにない。しかも「神様に呼ばれないとたどり着けない」などと不思議なエピソードを記事にしている方がたくさんいた。
その時、記者は予定した1度目の出発を台風で断念した。「私は呼ばれていないのか・・・」と少し落ち込みしばらく放置。忘れかけた1カ月後、再び天川を思い出す出来事があり、再度、参拝旅行を企画した。出発したものの道中は波乱の連続だった。電車が遅延して次の列車に乗り遅れそうになったり、急に体調が悪くなったり。半泣きになりながら、なんとか到着したのだった。しかも、土砂降り、本気の大雨。踏んだり蹴ったりな気持ちではあったが、やっとたどり着けたうれしさや達成感でいっぱいだった。
本殿に入り五十鈴を鳴らそうとし(初めての日はまったく鳴らなかった)、手を合わせた。その時、私は震えていた。手を合わせる両手が震えて涙が出た。理由はわからない。そして目を閉じて祈ろうとしたら、ただただ、ザーッという雨の音が響いていた。とても心地よくその音を感じているだけで何をお願いすることもしなかった。できなかったと言った方が正しいかもしれない。それが私が天川の神様にはじめてごあいさつをした日だった。天川の神様は雨の音、という印象が今でも強く残っている。
それから何度か参拝に訪れ、この場所がきっかけで奈良県の神社仏閣を回るようになり、県内に移住してしまった。この特集では奈良県に祭られている神々にまつわるお話を、神社を訪ねて紹介していきたいと思う。
その第1回は、どうしてもきっかけとなった天河大弁財天社からはじめたく、柿坂匡孝禰宜にお願いしたところ、快くお引き受けくださった。柿坂禰宜への取材の中で「たくさんの神社にお参りすることは、神様同士の結びをしている」という話があった(第6話で掲載)。せんえつながら、記者もこの連載を通して結びのお手伝いができればと思い「大和の神結び」というタイトルをつけさせてもらった。
大峯本宮 天河大弁財天社
奈良県吉野郡天川村坪内107
=第2話へつづく=