逢香の華やぐ大和 丹生川上神社中社(奈良県東吉野村)
大地のパワー存分に
龍に祈り、ワラビ堪能
丹生川上神社中社で撮影に臨む逢香さん=東吉野村小
書家の逢香さんが県内の社寺や名所を訪ね、地域の魅力を発見する「逢香の華やぐ大和」。今回は東吉野村の丹生川上神社中社と神武伝承のパワースポット「夢淵」(ゆめぶち)へ。さらに少し足を伸ばし、標高700メートルの山腹で、絶景ワラビ狩りを体験しました。(木之下伸子)
龍玉を受け取って
初めて東吉野村を訪れた逢香さんは圧倒的な緑の広がりに手を広げ、高見川の透明な流れに息をのんだ。古くから水の神を祭る丹生川上神社中社は龍神とつながりも深く、辰(たつ)年の今年はひときわ多くの参拝者でにぎわっている。
心静かに手を合わせた逢香さんに、日下康寛宮司がピンポン玉ほどの大きさの玉を手渡した。「龍が好む宝珠の代わりに土を固めてつくった龍玉(りゅうだま)です」とにっこり。龍神が住むという「東の滝(龍神の滝)」に投げ込み、願いを自分で神様に届けるのだという。玉には金色で「龍」の文字。一つ一つに書き入れるのは日下宮司で「大変ですが心を込めています」と人々の祈りに寄り添っている。
参拝者に人気の「龍玉」について説明する日下宮司
東の滝と夢淵
龍玉を握り締め、いざ、「東の滝」に向かう。滝の霊気を浴びた逢香さんはいつになく真剣な面持ちで、教わった通り龍玉の穴に息を3度吹きかけて祈りを込めると「ドラゴンボール!」と叫んで投げ入れた。
龍神が住むといわれる「東の滝」
「スッキリしました」と晴れやかな表情で水辺に近づく。日裏川と四郷川が合流し、吉野川に注ぐ高見川となる地点に青緑色の淵が広がっている。大和平定の戦いに向かう神武天皇が勝利を占ったという伝承がある。大きな石に腰をかけ、目の前の小さな野の花を慈しみながら、悠久の流れと歴史を感じていた。
夢淵を眺めてくつろぐ逢香さん
「すごい生命力」と、樹齢千年を超える「叶の大杉」に触れる
甘い天然ワラビ
天然のワラビ園は、丹生川上神社中社から約2・8キロの山中にある。同村在住の林業家で山菜アドバイザーの竹内信市さん(82)が約30年前に整備した。「古くから黒蕨(くろわらび)山と呼ばれていた山です。植林のスギ、ヒノキを伐採したらあまーい天然ワラビが見事に復活しました」と説明する竹内さんに導かれてワラビ園へ。初めはワラビを見過ごして進むばかりだったが、竹内さんのアドバイスに耳を傾けると「ほんとだ。ワラビの目線になったら見えてくる」。食べ頃のワラビを「ポキッ」と折る感覚をつかみ、収穫の楽しさを味わった。
高見山や宇陀市の山などを眺望する標高700メートルのワラビ園=東吉野村小
テラスに戻ると、竹内さんの友人たちがワラビ料理をこしらえてお待ちかね。アク抜きしたワラビの「お造り」は滑らかに柔らかく、ポン酢やわさびしょうゆでいただく。サクッとした衣に包まれた天ぷらは天然ワラビの甘みが引き立ち「おやつみたいに食べれちゃう」。大地と空にはぐくまれた滋味が口の中に広がった。
天然ワラビの天ぷらを用意する女性たち
竹内さんとその友人らに囲まれて記念撮影も
逢香の目
作品を手に、東吉野村の一日を振り返る逢香さん
丹生川上神社中社の境内では、樹齢1000年を超える「叶(かなえ)の大杉」の危険な枝を払う作業が行われていた。伐採作業で生じた小枝をもらって筆にした逢香さんは、「6月は夢ワラビ」としたためました。NHKの番組では、この書をイメージした懐かしい名曲も口ずさみます。
メモ
◆丹生川上神社中社
東吉野村小(おむら)968。村コミュニティーバス停留所「蟻通」下車すぐ。名阪国道針インターから国道369号経由で約30キロ。無料駐車場あり。龍玉初穂料300円。電話0746(42)0032。
◆書家/逢香(おうか)
奈良市在住。奈良教育大学伝統文化教育専攻書道教育専修卒業。6歳から書道を学ぶ。2020年、橿原神宮御鎮座130年記念大祭の題字を揮毫(きごう)。同年、元興寺(奈良市、世界遺産)の絵馬の書・画・印デザインを手掛ける。大学時代に個性豊かな妖怪に興味を持ち、「妖怪書家」としても活動。奈良市観光大使、(一社)モノモン代表。
「逢香の華やぐ大和」は奈良新聞社とNHK奈良放送局のコラボ企画で毎月1回掲載。NHK「ならナビ」(午後6時30分~)内で6月11日に放送されます。