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宇陀の毛皮革をブランドに。秘めた魅力伝えたい - ケイ・アラブナさん

 石川県からはるばる奈良県宇陀市に通い、同地の地場産業「毛皮革」の魅力を県内外に伝えようと活動に打ちこむ男性がいる。北陸を中心に活動する現代アーティスト兼アートディレクター、ケイ・アラブナさん(37)=石川県小松市=。今年度から市が推し進める「宇陀市菟田野毛皮革製品ブランド化事業」委託を請け負う。

 

ケイ・アラブナさん=本人提供

 

偶然と経験が重なり合い、宇陀へ

 出身は東京。高校を卒業後、石川県の金沢美術工芸大学美術科に進学し彫刻や現代アートの表現を学ぶ中で、多種多様な素材と向き合う。卒業後も石川に根付いて革工芸作家として10年以上活動を続け、並行して猟師として害獣駆除などの狩猟や山林環境活動に7年間、海底ゴミ潜水調査員として5年従事。野生動物やそれを取り巻く環境問題などにも思いを馳せてきた。

 

アラブナさんが一つひとつ手作業で仕上げる真鍮のシューホーン(靴べら)と本漆で手染めした牛革製のケース。小松市のふるさと納税返礼品にもなっている=同

 

アラブナさんの手がけたバッグ。金具は手打ち鍛造、パターンから縫製まで一人の手で制作する=同

 

 数年前プライベートでのバイクツーリング途中に偶然「同地に迷い込んだ」際、宇陀の毛皮革産業と出合う。高い品質を持ち全国一のシェアを占める一方、関連する業界にいる自身でさえ宇陀の事を知らずにいた事に衝撃を受けた。

 

 猟師の経験や知識、革工芸作家の技術を生かし、同市の誇る毛皮革産業の技術や価値をより広める手伝いができないか、公募以前から密かな思いをあたためてきた。

 

鞣(なめ)し加工前の半透明の皮を色付けして仕上げたフラワーコサージュ。食肉の加工過程で廃棄されるはずだった鹿の生皮を活用し、素材として用いた=同

 

 拠点の石川で以前、処分に税金を投入していた害獣駆除個体を地域の獣医学系機関に検体として提供する案を出したり、可能な限り皮革素材として有効活用するなどして、環境を意識しながら命を無駄なくアップサイクルするシステムを構築し感謝された“実績”も、宇陀での挑戦を後押しした。

 

 

「菟田野ブランド」のストーリーを丁寧に発信したい

 昨年12月に、同市菟田野毛皮革製品ブランド化事業への提案が見事採択され、市からアラブナさんが代表を務める Kei Arabuna Art Studio への正式な委託が決定。今年度からブランディングを手がける。

 

 国内外に向け菟田野ブランドの毛皮革を利用した新商品・新素材の販路多様化と拡大を目指す試みの第一歩として、1月には先行して宇陀に滞在し、市内の毛皮革加工事業者の見学や同市の歴史、文化の調査で地域理解を深めた。

 

 2月初旬には作家やデザイン関係者を招いて現地の縫製工場や加工施設など3ケ所を巡る視察ツアーを開催。当日は雪の降り仕切る中、現地での参加者と訪問先の担当者、市の関係者、オンライン参加者を繋ぎながら進行し、駆け足で濃い時間を過ごした。

 

 皮から革への製造工程や、毛皮革の素材の特性、加工のテクニックについての質疑など現場ならではの踏み込んだやり取りができ、参加者からの満足度も高かったが「(リモートもあり)初の試みでバタバタ。次回はもっとスマートに」と振り返る。

 

オンライン参加者に配信しながら視察ツアーを進行するアラブナさん(左)=2月5日、宇陀市菟田野岩崎のFUR工房ますだ

 

保管庫の毛皮も撮影。時代や需要の変化で低迷しがちなファー素材にも向き合い、生かす方法を探る=同

 

工場長の南浦湧弥さん(中央)から皮革製造過程の説明を聞く参加者ら=2月5日、宇陀市菟田野古市場の奈良産業

 

 

ただ物を「売る」だけではなく、価値と背景を「伝えたい」

 目指すのは「菟田野の毛皮革」のブランド化。新商品や新素材ももちろん打ち出していくが、出来上がった製品だけを並べて「はい、おしゃれでしょう?」という方法は考えていない。

 

 製品に至るまでの過程の部分に共感して感情移入してもらうことで、商品の本当の価値を伝えたい。毛皮革の原料となるのは生き物で、例え害獣駆除であれ「命」。命を終えても必要とされ重宝される役割を持つ毛皮革を、自身の作品にも特別な思いで取り入れてきた。宇陀でのプロジェクトも、処理や加工に関わる段階からの製法、加工者、作り手などの思い入れや背景の部分も丁寧に追った活動にしていこうと決めている。

 

 

地域とのつながりも大切に

 AIR(アーティストインレジデンス)も構想のひとつだ。アトリエに作家を招き制作活動をしてもらい、作品展示をする仕組みで、それをきっかけに地域全体を巻き込んでの活性化も計画に描く。

 

 プロジェクトは年単位。始まったばかりで、商品が出来上がるまでは時間がかかる。今は、菟田野の毛皮革製品がどれだけの魅力を秘めているかを、地域の人々に再認識してもらいたい。

 

 「宇陀の歴史や作家の描くストーリーが詰まったアイテムだからこそ大切に使いたい」という人に、活動がさざ波のように届いていき、毛皮革加工・製品といえば菟田野ブランドー の認識が当たり前になればと願う。

 

 これまでの自身の経験をすべて出し切って取り組むプロジェクト。新たな見せ方で発信していくことで結果的にそれが全国、世界に広がるはず、と意気込む。

 

問い合わせはアラブナさんメール、[email protected]

 

 

同市農林商工部商工産業課・宮阪正明さんに聞く

 

視察ツアーで菟田野の毛皮革の変遷を話す宮阪さん(左)とアラブナさん=2月5日、宇陀市菟田野古市場の産業振興センター

 

 2月の視察ツアーにも同行し菟田野の毛皮革産業の歴史について参加者にレクチャ―した、同市農林商工部商工産業課の宮阪正明さん(54)。アラブナさんを「菟田野にとって心強い人材。皮革の現場も加工も経験があり、公募でのプレゼンテーションも際立っていた。宇陀は小さい町。外からの意見も取り入れて、菟田野の産業を広く知ってもらえるきっかけになれば」と期待を寄せる。

 

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