垂れ耳の雄鹿「ロク」一周忌の写真展を開催 12月8日から3日間
垂れ耳のロクを正面から(宮浦さん撮影)=本人提供
印象的な垂れ耳と威厳も穏やかさも併せ持つ魅力で人気者だった奈良公園のオス鹿「鹿之丞(ろくのじょう・愛称ロク)」の一周忌に合わせ、アマチュア写真家2人による合同写真展「甦るロク〜開放一択」が開催される。会場は入江泰吉記念奈良市写真美術館(奈良市高畑町)で、会期は12月8日から10日までの3日間。
宮浦孝さん(56)とはしもとゆうすけさん(53)が数年にわたり一頭の神鹿=ロクを追った中から20〜30点ずつの作品を選び構成し、ロクとの時間を追体験できる空間となる。
奈良公園からレジェンドが消えて
ロクは昨年12月にその生涯を閉じた鹿界のレジェンド。当時SNSでは訃報を知った鹿ファンからの悲しみの投稿があふれた。カメラ歴40年の宮浦さんは仕事の傍ら約10年間毎週奈良公園に通い、先輩カメラマンたちとともに特別な被写体としてロクとの関係を築いてきた。インスタグラムではtakatinと名乗り、数多くのロクの写真を投稿してきた。別れの悲しみの中「一周忌には写真展を」という使命感を支えに奮起。
ナンキンハゼとおさまるロク(宮浦さん撮影)=同
この20年間ほどはキヤノンEF200f1.8L(焦点距離200ミリの大口径望遠単焦点レンズ)を使い、しぼり開放にこだわり撮影してきた宮浦さん。そして、撮影スタイルが自身と同じ大口径望遠単焦点レンズ・しぼり開放一択ながら「自分とは似て非なるものを持っている」と常日頃から感じていたはしもとさんを誘う形で同展が実現した。
大口径望遠単焦点レンズは光を多く取り込む構造で明るさや背景の美しいボケを表現できるが、ズームが活用できずピントの合う範囲が非常に狭いため構図取りの高度なテクニックが必要とされる。そんな大口径望遠単焦点レンズの制約や難しさも醍醐味として楽しみながらロクを撮り続けるはしもとさんの様子をずっと間近で見てきたのが宮浦さんだった。はしもとさんはタッグを組みたいと声掛けされた時の気持ちを「(宮浦さんは)常に先にいた人。断る理由はひとつもなかった」と振り返る。
宮浦さん(右)とはしもとさん。写真仲間で展示の際にスタッフも務めるtomokaさんが撮影=tomokaさん提供
2人の感じるロクの魅力を展示に込めて
奈良公園に通い「鹿活(シカカツ)」に励む写真家には、それぞれ推(お)しの鹿がいることが多い。宮浦さんはロクの諸先輩となるオス鹿たちの時代から、ロクが頭角をあらわし老いていくまで長く寄り添ってきた。
宮浦さんはロクについて「若い時代の威厳に満ち堂々とした姿。垂れた耳がトレードマークとなった晩年の穏やかで人懐っこく可愛らしさが増した姿。常に彼に魅了されてきた」、またはしもとさんも「出会った瞬間その姿と澄んだ瞳に知性を感じ、奈良公園へ来るたびにロクを探すようになった。頭が良く立ち姿も歩き姿も美しい。キャリアの長い映画俳優のようなたたずまいでどんな瞬間も画(え)になる鹿だった」と、思い出は尽きない。
ロクの振り返る様子をとらえた一枚(宮浦さん撮影)=同
ナンキンハゼとおさまるロク(はしもとさん撮影)=同
展示は、来た人に「ロクが甦った」と感じてもらえるよう、作品構成はとことんこだわり抜いた。方向性の相違や、意見のぶつけあいもあったが、会場に2人で何度も足を運んでは構想を練り直しテストする、を根気よく繰り返した。今回、最大で1120×2000ミリの超大判サイズなど扱いの難しい展示にも挑み、作品によっては実物より大きくプリントし迫力のある作品も準備。ロクがいたその場にトリップするような感覚を味わってもらえるようこだわった。
これからも奈良で撮り続けたい
ロクが不在でも2人の撮影は続く。宮浦さんは今、晩年のロクが目をかけて寄り添っていた、若いオス鹿の「ぽんちゃん」を追っている。「ロクは亡くなる1年前から、ぽんちゃんをいつもそばに置いて野生のシカが奈良公園で生きる術(すべ)を教え込んでいた。亡くなる1~2か月前からぽんちゃんに冷たく見ていても可哀そうなほどだったが、今思うと自身の寿命と近々来る別れを考えての優しさの現れだったと理解できる」と話す。
若いオス鹿の「ぽんちゃん」(宮浦さん撮影)=同
はしもとさんはロクのほかに「慈しみ」をテーマとした鹿の親子のふれあいを撮り続けており、現在も継続。鹿が飛び跳ねる一瞬を切り取った「宙に浮く」鹿のシリーズや、自身が名付けた「壱子」「弐子」の姉妹鹿も、常に見守りながら熱心に撮影を重ねる被写体だ。
「慈しみ」をテーマとした一枚(はしもとさん撮影)=同
宙に浮いたような子鹿の姿(はしもとさん撮影)=同
姉妹鹿の壱子と弐子(はしもとさん撮影)=同
撮る人、訪れる人に伝えたいこと
奈良に人と鹿が共存する奈良公園があることを誇りに思う、と話す2人。この環境を守るため「鹿も生き物。その時々のコンディションの良しあしを見て、無理強いしないことが大切。観光客が増えてくると鹿たちも疲れが出てくるので、早朝だとゆっくりと撮影や交流ができる。ご褒美には鹿せんべいを。パンくずや作物など人の食べ物は絶対にあげないで」(宮浦さん)、「鹿せんべい以外は与えない、生まれて間もない子鹿に近付きすぎないのは大前提。撮影では、鹿と同じ目線からカメラを構えることや、作品を見る人の想像で補える部分は思い切って排除して切り取るのがおすすめ。写真以外の芸術に触れることも、表現を磨く参考になる」(はしもとさん)とそれぞれ語った。
会期中、宮浦さんは在廊予定、はしもとさんは調整中のため未定。
時間は午前9時30分から午後5時(入館は4時30分まで)、最終日の10日は午後4時で終了。入場無料。駐車場1時間無料。展示の最新情報は2人のSNSにも掲載。展示問い合わせは同館、電話:0742(22)9811。
宮浦(takatin)さんインスタグラムは≫≫コチラ
はしもとさんインスタグラムは≫≫コチラ
ロクとのエピソード
東大寺前を歩くロク(宮浦さん撮影)=同
▼宮浦さん
コロナ禍の2021年夏、奈良公園も人っ気は皆無。石段に佇むロクさんを南大門や東大寺をバックに、二度と撮れないような構図で二人きりの撮影会を楽しみました。
▼はしもとさん
ヌタ打ち(発情期のオス鹿が水たまりの泥に自身の尿を混ぜ首に擦り付ける泥浴び)直後のロクさん。突然体をブルブルと震わせ、近くにいた私は全身にその泥を浴びました。
写真展のリーフレット=同