エンタメ満載、走る「コンシェルジュ」!人力車で奈良観光の未来づくりまで描く「ことぶき屋」
奈良市・奈良公園周辺での風情ある「人力車」を使った観光。市内では外国人観光客や、修学旅行生などの姿が連日見られるようになってきた。奈良市内で婚礼と観光の人力車案内に力を入れる「ことぶき屋(株式会社インフィニ)」(奈良市南紀寺、荻野宏代表)は、人力車をレトロな魅力だけではない「ライド・アトラクション」として発信、厳しいコロナ禍の中でも「奈良にまた来たくなる」体験を提供してきた。
今回、創業間もなくからパートナー企業として同社の人力車事業全般に携わる、「心家(合同会社センスオブファン)」代表の松田賢さん(44)から、時代に合わせた人力車のイメージ作りやサービスの工夫、人力車を通じて同社が目指す奈良観光の将来像などについて話を聞いた。
スタートは婚礼人力車。「その人だけの物語を作っていく」思いを観光にも
ことぶき屋の人力車に乗車する外国人観光客=奈良市内・東大寺南大門そばの浮雲園地
人力車というと旅先でのちょっと新鮮な乗車体験、というイメージがあるが、同社は新郎新婦のハレの日の乗車やアテンドに特化した「婚礼人力車」として2012年に創業。人生で一度の大切な1日に寄り添う事業を展開してきた。のちに観光やイベント業を得意とする「心家」と提携し、より多くの人に素晴らしい奈良の時間を体験してもらいたいという気持ちで2015年ごろから「観光人力車」の分野にも参入。他社と共に、人力車で奈良公園やならまち界隈(かいわい)の観光を盛り上げてきた。
白を基調とした婚礼仕様の人力車。ジューンブライド(6月)の時期のほか、桜の季節の婚礼利用や前撮りでも多く利用される=ことぶき屋提供
確かな技術やおもてなしの心は根底に置きつつ、ワクワクや感動のあるテーマパーク体験のような、エンターテインメント色を強く打ち出しているのも「ことぶき屋」の特徴だ。昨年にはWEBサイトも刷新。人力車体験=ライド・アトラクション、人力車をひく俥夫(しゃふ)=キャストと表現するなど「和の雰囲気とはがらりと変え、敷居の高いイメージを一新。反応も上々」という松田さんは、「ことぶき屋が届けたい『特別な体験』への思いの、ほんの入り口部分」と笑う。
人力車のキャストは「アスリート」の体力をもつ「コンシェルジュ」!
坂が多くアップダウンが多い奈良市内。年間通して体のコンディションをキープするため、プロアスリートのように日ごろからトレーニングを欠かさない。繁忙期には一日でフルマラソン並みの距離を走ったベテランキャストも。
現在は6人体制で、奈良を訪れる観光客にライド・アトラクションを提供する。待機時間には人力車の手入れをしつつ、キャスト同士で当日の道の状況など積極的に情報交換。4名などファミリーが利用の際はてきぱきと2台の人力車へ案内し、順にトークや写真撮影、乗車サポートをするなど、チームワークの良さが光る。
待機場で情報交換をするキャストと松田さん(左から2人目)=奈良市春日野町の駐車場・プラザパーク大仏前
人力車は予約なしでの当日乗車も可能だが、奈良の景色に魅せられた県外客を中心に「桜の時期の乗車が素晴らしかったので紅葉の季節も」という予約や、「前回寺社にまつわる話が興味深かった。同じ方により深い奈良を案内して欲しい」とキャストを指名してのリピート利用者も多い。
そのため最新の観光やイベント情報を頭に入れるのはもちろんのこと、奈良の歴史文化や今起こっていることの背景など各キャストの視点でとことん深堀りすることも。「キャスト自身が奈良を大好きでいることが、お客様に楽しんでもらうための大前提。ホテルのコンシェルジュのように、知識のアップデートは欠かせない」と話す。
「同じ話は自分も飽きるし、それがお客様にも伝わってしまう。慣れでの案内ほど面白くないものはない。奈良に来てくれた皆さんと、一緒に楽しい時間を作り上げたいという気持ちで一つひとつの乗車に向き合っている」。
また鹿についての勉強も欠かせない。「鹿は奈良の大切な財産。奈良市内で鹿がいない人力車は考えられない」。そんな「知識」に裏付けされた案内で奈良県在住の利用者に好評なのは、「鹿博士コース」。人力車で奈良公園一帯を巡りながら鹿の生態や行動、裏話などを学び楽しめるとあって、子ども連れのファミリーから特に需要が高い。
鹿は奈良公園の環境も守ってくれる大切な財産だという=ことぶき屋提供
海外のお客様にも「共に過ごす時間を頂いている」意識で
海外からの観光需要も徐々に戻ってきた。キャストの中には留学経験から英語や中国語が堪能なメンバーもおり、最初のコミュニケーションの時間も大事にしている。
乗車前のコミュニケーションや記念撮影でリラックスした表情の乗客=奈良市内・東大寺南大門そばの浮雲園地
「伝えること、お互いを知ることから人力車の体験が始まっている。若手キャストは語学力も豊かで、吸収力や柔軟さは目を見張るものがある。ベテラン勢も安定感や知識に加え、奈良の魅力を知ってほしいというパッションが伝わるよう日々意識を高く持っている」。
松田さん自身、奈良市の般若寺近くの生まれ育ち。慣れ親しんだ地元出身だからこそ、常に奈良に対する新鮮な目線を持ち続けたいと語る。「人力車が楽しいのは当たり前。満足の上の『感動』や『非日常』をキャスト側が強く意識していないと、お客様にとっての特別は刻まれないので」。
やり取りや案内の中で、より難しい表現が必要になったときには、AI(人工知能)通訳機も活用。言葉の壁を意識しない心の交流を含めたコミュニケーションにも重きを置いている。出会いを大切に、相手に丁寧に向き合うことで、奈良での時間を共有した充実感が互いに生まれる。
新たな取り組み、人力車を使わないナイトウォークも徐々に浸透
「心家」色の強い活動としては、5年ほど前から大手旅行代理店とコラボレーションした散策プラン「奈良の夜さんぽ」を展開。奈良の宿泊施設と提携し、昼間とは違う夜の奈良の街並みや世界遺産、文化財の魅力を1時間ほど「歩き」でガイドしている。人力車の関連会社がなぜナイトウォークと驚かれるが、『宿泊してこそ知れる夜の奈良は新鮮』と好評だ。
また修学旅行の団体には同プランを無償で提供。確かな知識と軽快なガイドが評判で、毎年の「修学旅行の定番」にする学校も増えてきた。「おそらく初めての奈良。遠くから来た学生の皆さんにも心に残る奈良時間を体験してほしい。今は無償でも、将来の奈良の観光を守っていくために必要なことだと思っている」と笑顔で話す。
「奈良が好きだから」将来の奈良観光の盛り上がりのために奔走
ほかにも宿泊施設や飲食店と連携したサービスを展開することが、奈良の盛り上がりを作ると実感してきた松田さん。
「今後も良い横のつながりを結んで、婚礼、観光、学生旅行問わず奈良を訪れる方々に感動を届けたい。人力車が奈良に繰り返し足を運ぶきっかけになれたら。奈良市外で人力車が楽しめるバスツアーも構想している。ことぶき屋として10年の節目は越えたので、また10年後、いや、もっと先の奈良の将来も意識して汗を流していきたい。奈良が大好きなので」と締めくくった。
ファミリーを乗せ春日大社方面へ出発することぶき屋の人力車=同
取材帰り、氷室神社付近を走り抜けることぶき屋の人力車に手をふる学生たちの列。キャストが手を上げて応じると「わぁっ」と歓声が。「乗ってみたいなぁ」の声があちらこちらから上がっていた。
ことぶき屋
スタッフ一同、人力車による最高のエンターテインメントを目指しています。
ご利用いただくすべてのお客様に、人力車での観光が「特別な瞬間」となるよう、お客様と一緒に楽しんで作り上げたいと思っております。感謝の気持ち・おもてなしの心を大切に、これからもことぶき屋は走り続けます。
「奈良新聞をみた」の合言葉でおトクに人力車体験が可能=特典提供「ことぶき屋」(写真はイメージ)
「奈良新聞をみた」で、通常の乗車料金から10%割引(ことぶき屋の観光人力車に限る)。
電話予約時または乗車前にキャストへ。
2023年9月1日乗車分まで有効。
のりば情報
※記事公開時の情報です
<「ことぶき屋」人力車のりばへのアクセス>
奈良県奈良市春日野町11
東大寺大仏殿前近く駐車場「プラザパーク大仏前」内(三山駐車場)
<電話>
0742-22-8876
<営業時間>
11:00〜17:00(平日)、10:30〜17:00(土曜)、10:00〜17:00(日祝)
※営業時間は季節や市内イベントの有無により変動の場合有
※予約なしでも待機車があれば当日乗車可能。春(桜の季節)、GW、燈花会、秋(紅葉の季節)などの繁忙期は事前予約がスムーズ
<ことぶき屋公式WEBサイト>※オンライン予約ページにメニューや料金の記載あり
<ことぶき屋公式instagram>