社長の高齢化 終活と同じなのに - 編集委員 松岡 智
人生の終わりのための活動「終活」は言葉、行動ともに定着した感がある。その日への準備を明確な判断ができる間に済ませ、残された人々が突然の事態に戸惑い、争うことを回避するとともに、残りの人生をより有意義に過ごす取り組みとして捉えられている。
では同様の行動が企業のトップにはできないのか。帝国データバンク奈良支店の2023年県社長年齢分析調査によれば、県内企業の社長の平均年齢は60.6歳で、33年連続で上昇。約8割が50歳以上だ。一方、社長交代率は3.29%にとどまり、全国平均を下回る。社長交代の平均年齢は69.1歳。後継者難倒産のうち、経営者の病気や死亡をきっかけに廃業に至るケースは全国で約4割に達し、県内でも事例がある。同支店は高齢リスクを避け、円滑な事業承継のために、計画的で余裕ある準備の必要性を指摘している。
近年、自身も社長交代を実行した県内経済団体の関係者は「引き継ぎ準備は早い方がいい。10年ほどは必要」と断言する。トップ交代では、自社への理解や仕事に対する知識、経験と併せ、就任後に社員がついていくかどうかといった人間性の部分まで見極めて次期候補を選ぶ必要があり、従業員一人一人を改めて見直し、引き継ぎ当初の環境を整えておくには相応の時間を要するとの理由からだ。
人生と同様、先頭に立って経営のかじを取り、実績を上げていく日々にもいずれ終わりが来る。一定の年齢になれば、気力は充実していても予期せぬ疾病などのリスクが高まるのは、ほとんどの人が避けられない。体力の衰えで気力もそがれていくとき、生み育てた事業や製品、サービス、技術を託す人材や事業者、方法を冷静に判断、選択できるだろうか。各経営者が展開する事業には、それぞれ存在意義があるに違いない。自分の能力、立場にこだわり過ぎていては未来は閉ざされてしまう。
前述の分析調査では、後継者不在率は全国的に改善傾向だという。まだ後継者が見つかっていなくても、仕事や成果への思いを託す仕組みは多様であり、事業承継の専門家・機関により新たな方法も提案されている。自分で判断できなければ助言を受けることや、当初案が不調なら次の案と、複数の計画を持つことも大切だろう。
ともあれ、社長の高齢化が今後も続けば、不慮の事態のリスクは高まり、引き継ぎのタイミングを逃す可能性も増す。事業の継続を描いているなら、判断のデッドラインは日ごとに近づいている。