クマ出没増加 共生へすみ分けを - 編集委員 高瀬 法義
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昨年、クマによる人的被害は過去最多を記録した。今年もクマ出没のニュースが毎日のように報じられている。県内でも6月22日、吉野町柳地内の山林で、推定2~3歳のオスのツキノワグマ1頭が出没。有害獣駆除活動を行っていた猟師が出くわし、やむを得ず射殺した。また、4月にも十津川村で男性がクマに襲われて軽傷を負った。
県によると、県内のツキノワグマの目撃情報は昨年6月末までの18件に対し、今年は6月22日現在で38件と倍増。今回の出没地点は宇陀市や桜井市に近い吉野川以北で、生息地と認識された地域から外れていた。県南部地域は今後、登山や川遊びをはじめとする夏の行楽シーズンを迎え、クマによる人的被害の発生も危惧される。
クマによる被害多発を受け、国は今年4月、絶滅の危機が高い四国のツキノワグマは除くクマ類を、ニホンジカやイノシシと同じく「指定管理鳥獣」に追加した。これにより、都道府県による捕獲や生息状況の調査事業が国の交付金の対象となる。
環境省によると、北海道のヒグマと、本州以南(九州は除く)のツキノワグマは全国的に増加傾向にある。ただ、捕獲などによる頭数管理では被害防止が難しい。現在のクマ被害は、人とクマの生活圏の接近が要因に挙げられるからだ。山林における木の実などの餌不足に加え、人口減少で山林や里山の手入れが届かなくなったことでクマの生息域が広がり、人とクマの生活圏の「緩衝地帯」が無くなりつつある。
さらに、狩猟者が減り、クマが人間を怖い存在だと思わなくなったとされる。そのため、人に慣れ、市街地で餌を求める「アーバンベア」と呼ばれるクマも増えている。
対策としては、人とクマの「すみ分け」が大切だ。山林や里山の整備に力を注ぐとともに、電気柵を設置するなどして、人とクマの生活圏の緩衝地帯を再構築する必要がある。また、緩衝地帯の近くでは、食べ物のごみを屋外に置かないようにしなければならない。
さらに、登山などでクマの生活圏に入る場合は、鈴を鳴らしたり、ラジオを大きな音で流すなどクマと出会わないよう自衛策を講じなければならないだろう。
県南部は川遊びやバーベキューの行楽客の放置ゴミ問題も抱えている。放置ごみの匂いがクマを誘引してしまう可能性があり、対策を強化する必要がある。クマは保護すべき希少動物でもあり、共生に向けて智恵を絞らないと。