歴史を学ぶ場所に 平城宮跡観光振興 - 編集委員 高瀬 法義
就任から1年を迎えた奈良県の山下真知事。これまで荒井正吾前知事の色が濃い大型事業の見直しを進め、独自色の打ち出しを図ってきた。平城宮跡に関する事業もその一つ。宮跡近くの県有地では歴史体験学習館整備などが計画されていたが、山下知事は費用対効果などを理由に関連予算の執行を停止。さらに、宮跡で2016年から開いてきた「奈良ちとせ祝(ほ)ぐ寿(ほ)ぐまつり(大立山まつり)」と「平城京天平祭(夏・秋)」の廃止も決めた。
大立山まつりは県内の伝統行事の披露と温かい料理の提供により、市町村の魅力を発信する催し。当初は四天王像の大立山4体の制作費をはじめとする巨額の公金投入や、コンセプトのわかり難さが批判されたが、宮中の正月行事「御斎会(ごさいえ)」を再現するなど宮跡で開く意義付けを図ったこともあり、今年1月の第9回は2日間で約1万6千人が訪れて、一定の集客実績を残している。
観光客が落ち込む冬のオフシーズンの誘客を狙った催しだが、インバウンドの増加もあり開催目的は薄れた。ただ、もう一つの目的である平城宮跡のにぎわいづくりが課題として残る。
国特別史跡で世界遺産「古都奈良の文化遺産」の一つである宮跡は、2008年に国営歴史公園としての整備が決定。朱雀門や東院庭園などに加えて、10年に第一次大極殿、22年には大極門の復元が完成している。18年には観光拠点の朱雀門ひろばなども整備されたが、奈良公園と比べるとにぎわいに欠ける。
今月15日に初会合が開かれた「県観光戦略本部」では、四つの重点エリアの一つに「平城宮跡周辺」を設定。山下知事は「行政が税金を投入しなくても人が自然に集まってくるような、人を引きつけることのできるコンテンツを検討していきたい」とする。
ただ忘れてはならないのは、約132ヘクタールの広大な敷地が保存されてきた宮跡が、国内でも唯一無二の存在であること。それは幕末からの保存活動に携わってきた先人たちの努力のたまものだ。復元された建物も長年の発掘調査と古代建築研究の成果であるといえる。
宮跡は、単なる観光地ではなく、国民が奈良時代の歴史を学び、体験できる場所であるべきだ。復元建物などのハード面を整えても、それに見合ったソフトがなければ、「仏作って魂入れず」になってしまう。有識者や民間の声も交えた、今後の宮跡観光振興のあるべき姿の議論が必要だ。