金曜時評

中央省庁の関西移転 中企庁移転は夢か - 編集委員 松岡 智

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 新型コロナの5類移行などで人流が戻り、訪日客数もコロナ禍前の数字に近づく。だが県内の経済、金融関係者らからは売り上げは伸びているものの、利益が伴っていないとの声が漏れる。原材料、エネルギー価格の高騰、円安といった背景はあるが、根本的な部分で足腰の強い企業が増えなければ、県内経済も先が見通せない。

 

 本格的な景気回復に大手に続き中小企業の賃上げが必要とされる中、思い起こされるのが2015年に募集された中央省庁の地方移転だ。東京一極集中の是正、地方創生の実現などが目的だった。大阪府は、高度で多様な中小企業の集積地として中小企業庁、特許庁の移転を求めたが、地域拠点の体制整備で一区切りついた。

 

 その際、移転効果とされたのは西の拠点としての経済中枢機能の強化や、地方の現状を的確に把握した施策に基づく全国の中小企業の発展への寄与などだった。同様の思いは、県内の事業者や経済団体関係者の間で今も根強い。日本経済の屋台骨として将来の発展をけん引できる、真に力のある中小企業の確立には、目標達成に企業と本音で語り合える国の主要機関がそばにあることが望ましいとの考えだ。移転は国の本気度を示す尺度でもある。

 

 「伝聞より現場」は多方面で通じる。経済関連でも実際に現場に出向いた時の方が得たり、学んだりすることが多いのは、多くの人が経験済みだろう。中小企業関係者がその経験を重ねるには、熱が感じられる距離に中枢機関がある必要がある。国が推進するデジタル社会を踏まえれば、中小企業施策での関係省庁、機関との連絡、連携は必ずしも東京に拠点がなくても可能だ。災害時には復興への長期的視野が必要なことを考慮すれば、本省などとの距離の近さよりも災害直撃でのリスクを分散しておく方を選ぶべきではないか。

 

 省庁移転は地方創生という名の特定地域の活性化にとどまらず、その先にある国全体のより均衡した発展が真の目的だろう。持続性のある経済振興には景気変動に強い中小企業の育成、底上げは不可欠だ。時に大胆な転換も必要になる。関西広域連合は16年当時、各自治体の意向を集約して検討機関に移転要請書を出し、以後は国の予算編成時に移転を要望してきた。関西全体としてより強い働きかけに期待したい。もちろん同連合に全面加入した奈良県が、大きな自然災害が少なく、大阪府ととりわけ縁の深い地域として移転先に手を挙げるのもいい。

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