県立美術館“50歳” 郷土の宝 活かして - 編集委員 辻 恵介
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県立美術館(奈良市登大路町)で、開館50周年記念展「富本憲吉展の これまでとこれから」が9月3日まで開催中で、所蔵品を中心に180件が展示されている。
前回2019(令和元)年の企画展のタイトルは「富本憲吉入門―彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか」だった。通算15回目となる今回は、デザイナーの先駆者としての側面や、日用陶磁器の量産化を図った功績にもスポットを当てた展開になっている。
富本は生駒郡安堵村(現安堵町)生まれの陶芸家(1886〜1963)。大正から昭和にかけて活躍し、55(昭和30)年に人間国宝(色絵磁器)第一号に認定、61年には文化勲章を受章している。
同館が開館したのは73(同48)年3月3日。開館記念として、翌4日から4月22日まで開かれたのが「富本憲吉展」であった。出品件数は今回の倍以上、破格ともいうべき406件だったそうで、開館を祝う関係者の喜びや、熱い意気込みが伝わってきそうだ。
73年は県人口が100万人を突破し、国鉄関西線奈良―湊町(現JR難波)間の電化が完成・開通した年だった。県勢発展への期待が高まった年でもあっただろう。
同館では開館以降、富本作品を購入・寄贈などで増やし、現在では約170点にまで達した。館蔵品を代表する「赤地金銀彩羊歯模様蓋付飾壺」は、駐米日本大使館にあることを、懇意にしていた憲吉翁から聞いた当時の奥田良三知事が、熱心に外務省に働きかけたことで、77(同52)年に収蔵されたものという(「燦々菁々滾々(さんさんせいせいこんこん)―私の県政史」奥田良三・著から)。
02(平成14)年の館蔵品展では、奈良市出身のグラフィックデザイナー・田中一光(1930〜2002)のポスターなどの作品も一緒に展示された。こちらは昭和を代表するグラフィックデザインの開拓者の一人で、同館の所蔵品は200点を超える。「LOFT」や「無印良品」などのロゴの作者といえば、親しみがわくだろう。 同館は、他にも鎌倉時代から現代までの日本美術を中心に、4600点を超える所蔵品を誇る。学芸員ら関係者が苦労して集めた、また収集家がまとめて寄贈してくれた複数のコレクションを、今後もぜひ活用してほしい。
同館は、奈良公園に隣接し、県庁前バス停から数分、近鉄奈良駅から歩いても徒歩5分程度という好立地の場所にあるので、ぜひ一度のぞいてほしい。