悲願の新斎苑完成 知恵出せ奈良市議 - 主筆 甘利 治夫
閑静な高円の杜(もり)に、故人を見送る新しい斎場ができた。「奈良市斎苑 旅立ちの杜」だ。先月の落成式典には、仲川元庸市長をはじめ市議会、市自治会連合会、地元住民らが出席して完成を祝った。
1916(大正5)年に開設された東山霊苑火葬場は、百年以上も稼働し、老朽化も著しく、何度も改修を行ってきた。そして火葬件数の増加で、火葬炉の性能も追いつかず、市民の4分の1は市外の施設を利用する有様だった。
60年以上前から、新斎苑計画が進められてきた。多くの移転候補地も検討されたが、実現には至らなかった。歴代の市長や議会関係者の懸案事業で、悲願ともいえる新斎苑の完成でもある。まさに紆余(うよ)曲折を経ての完成でもある。
今月1日の供用開始以来、スムースに運用されているという。昨日、周囲に満開の桜が咲き誇る新斎苑を訪れた。初日、2日と対応可能な22件の利用があり、その後は15件前後で推移、昨日も17件の対応だったという。東山霊苑時代は1日最大8件の対応だったから、これまでいかに他市の施設を利用してきたかが分かる。
新斎苑の利用料金は、市民で大人1万円、市外の人は10万円となっている。これは、これまで他市の施設を利用してきた奈良市民は、1万円で済むところを10万円も負担してきたわけだ。わずか1週間の利用状況をみても、今までなら半数以上の人が市外の施設を利用していた計算となる。年間に直すと、市民がいかに大金を負担してきたかが分かる。
市民の誰もがお世話になる新斎苑の完成なのに、持ち越された問題が大きい。用地買収に関わる住民訴訟判決で、約1億1640万円の損害賠償請求が、仲川市長と地権者に出されている。
判決に従うべきだが、用地交渉の過程をみると、新斎苑建設に執念をみせた市が、地権者の心を動かしたことは間違いない。このことで仲川市長個人が利益を得たこともなく、地権者も親の代の土地価格から低い売値だったという。
否決されたが、議会で債権放棄などの議案も出されたが、新斎苑は議会の賛同がなければ、いまだに完成していない。仲川市長個人に賠償責任を負わせていいのか、市民から仲川市長の政治団体に寄付する動きなどもある。首長と両輪の議会人なら、知恵を出して何らかの対応をすべきではないか。それでこそ市民とともに新斎苑の完成を心から喜べる。