中小のパワハラ対策 - 編集委員 松岡 智
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労働施策総合推進法の改正で、令和4年4月から中小企業のパワーハラスメント防止措置が義務化される。昨年6月の大企業に続き、中小企業でも事業主に職場でのパワハラの防止と対策が明確に求められることになる。
義務化により事業主は、就業規則に盛り込むなど企業方針の明示と周知、相談や苦情に対応できる社内体制の整備、問題発生時の迅速な対応といった措置をする責任が生じる。違反への罰則はないものの監督機関からの指導、勧告や、場合により企業名が公表されることもあり、向き合わないままでは済まされない。
義務化に際して国などは、パワハラに該当するか否かの指針を例示するとともに、対策整備のためのコンサルティングやセミナー開催といった支援も展開。さまざまな関連資料も提供されている。関係者によれば、支援などを利用して義務化への対応を始めている中小企業も少なくない。社内のあつれきを回避し、仕事の効率化と生産性向上を実現するには早期の着手は必然と言える。
フレックスタイム制やリモート勤務、男性を含む育児休業取得の推進、就労しながらのスキルアップの制度化といった柔軟で多様な働き方の進展と併せ、健全な心身を保って業務ができるパワハラ以外のハラスメント対策やストレスチェックなども義務化された。働きやすい職場環境づくりは以前にも増して積極的になっている。労働力人口減少や終身雇用制の見直しに加え、収入面だけで企業を選ばず、好きな仕事でも過重労働を当然のように受け入れはしない時代。職場環境整備への遅れが招く結果は言わずもがなだろう。
社会情勢などで一時的な買い手市場の時期があったとしても、将来的に就業希望者に企業が選ばれる状況となるのは避けられない。企業の評判の伝播もかつてないほど速いなか、人の代わりをほぼマシンが担う企業でない限り、優秀な人材の確保と流失阻止のために職場環境の整備が優先事項となるのは疑いがないことだ。
法改正以降、奈良労働局への県内のパワハラ関連の相談件数は昨年6月から今年3月末までに348件、今年4~9月で201件を数える。問題の種は尽きない。だからこそ小さな火種が紛争などの深刻な状況に膨らまないよう、事前の手立てが肝要なのだ。年末年始をはさむ4カ月は思いのほか短い。義務化への対応に着手していない企業が今から準備を始めても、決して早すぎることはない。