万葉車窓
奈良駅(JR関西本線) - より良く変わる古都の顔
『 世間(よのなか)を 常なきものと 今そ知る 奈良の都の 移ろふ見れば 』
万葉の時代には都が移るとき、古い建物を壊してその部材で新しい都を造るのが常だったという。山城・恭仁(くに)京へ遷都後、廃虚に変わる無情を歌ったものも多い。
『 立ち変り 古き都と なりぬれば 道の芝草 長く生(お)ひにけり 』
時がたち、一変してしまった風景を悲しむ歌も残されている。
JR奈良駅周辺は現在、連続立体交差事業が進められている。ことし9月中には現駅舎の南側に仮駅舎が完成し、駅の機能が移される。この時点で昭和9年から使われ奈良の顔として親しまれた現在の駅舎はその役目を終える。駅舎は曳(ひ)き家工事により北に約20メートル移動させるなどして保存活用されるという。
曳き家工事は来年3月から開始。平成22年度に完成し関西線や桜井線が高架化されると駅周辺は一変することだろう。この万葉歌では荒れ行く都を憂えて歌ったものだが、JR奈良駅はより良く変わるという。その未来を感じたい。
●参考図書=米田勝著「万葉を行く」(奈良新聞社刊)、和田嘉寿男著「大和の万葉歌」(奈良新聞出版センター刊)
写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)