西ノ京-九条(近鉄橿原線) - 塔が伝える華やかな古都
『 我(あ)が主(ぬし)の 御霊(みたま)賜ひて 春さらば 奈良の都に 召上(めさ)げ給はね 』
(天平2年12月6日 筑前 国司 山上憶良 謹上)
この歌は山上憶良(やまのうえのおくら)が、ご主人様のお心におすがりして、春になれば奈良の京に帰任させてくださいと願いを込めた歌で望郷の念をにじませる。
法相宗大本山薬師寺(安田暎胤管主)は、この歌に詠まれた平城京の南西に位置する。
同寺によると、680年に天武天皇により発願、持統天皇が697年に本尊を開眼し文武天皇の代に飛鳥で伽藍(がらん)の完成を見るが、710年の平城遷都に伴い現在の場所に移ったという。
平成10年にユネスコ世界遺産に登録された。境内は昭和51年に金堂、同56年に西塔が落慶し、その後も中門や回廊、大講堂など伽藍の再建が進められ、往時の華やかさを取り戻している。
写真の塔は西塔。復興された塔は、創建当時から現存する東塔と比べると白、赤、緑と色鮮やかで、奈良の都の華やかさを現代にうかがうことができる。この塔を見ていると、何度も出てくるがこの歌が一番合うのではないだろうか。
『 あをによし 寧楽の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり 』
●参考図書=米田勝著「万葉を行く」(奈良新聞社刊)、和田嘉寿男著「大和の万葉歌」(奈良新聞出版センター刊)
写真・文 本紙・藤井博信(日本写真家協会会員)